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『夜明けのすべて』感想・考察|夜は誰にでも訪れる。そして夜明けもまた、誰にでも訪れる。

「普通を目指さなくていい。」

『夜明けのすべて』を観終えたあと、最初に心に残ったのはこの言葉だった。

主人公の二人、山添さんはパニック障害を抱え、藤沢さんはPMS(月経前症候群)に苦しんでいる。

「普通」に考えれば、会社勤めは難しいと判断されてもおかしくない二人だ。

しかし、この映画は二人が病気を克服する物語ではない。

彼らを受け入れる環境を描いた物語だった。

「普通」に合わせるのではなく、人に合わせる会社

この映画に登場する小さな会社は、

無理をさせない。
できないことを責めない。
必要以上に励まさない。

だからといって特別扱いもしない。

ただ、「この人はこういう人なんだ」と自然に受け入れている。

多くの会社が「人が会社に合わせる」ことを求めるなか、「人に合わせて会社が少し変わる」という考え方を持っている会社だ。

そんな場所では、人は自分を守ることだけで精一杯にならず、相手を見る余裕が生まれる。

優しい人が集まっているから優しい会社になるのではない。

安心できる環境が、人を優しくするのだ。

環境は、人を変える。

病気の映画ではない、「誰もが何かを抱えている」映画だ

この映画はパニック障害やPMSを丁寧に描いている。

しかし、それだけを描こうとはしていない。

二人の病気は、この映画に流れる大きなテーマの一例に過ぎないように感じた。

生きていれば、誰にでも何かがある。

持病を抱える人もいれば、仕事の悩みを抱える人もいる。

家族の問題を抱える人もいる。

大なり小なり、多かれ少なかれ、人は皆、それぞれの「夜」を抱えて生きている。

私自身も、二年半ほど五十肩に苦しんだ。

一番つらかったのは痛みそのものより、「この痛みはいったいいつまで続くんだ」という終わりの見えない不安だった。

もちろん、五十肩とパニック障害やPMSを同じように語ることはできない。

それでも、「終わりが見えない不調と付き合う心細さ」という点では、主人公たちの気持ちと少しだけ似ていると思った。

だから、この映画は病気の物語ではない。

何かを抱えながら今日を生きている、すべての人の物語なのだと思う。

原作からの改変が、この映画を完成させた

原作では、二人の間に少しだけ恋愛感情の芽生えを感じさせる終わり方だったと記憶している。

一方、映画はその要素を薄め、代わりに移動プラネタリウムというラストを選んだ。

この改変が、本当に素晴らしかった。

恋愛で終わらせなかったからこそ、この映画は最後まで「生きること」を描き続けることができた。

弱さを理解し合い、安心して隣にいられる関係。そんな関係もまた、人生にとってかけがえのないものなのだ。

『夜明けのすべて』というタイトルの意味

ラストのプラネタリウムで語られる言葉が、この映画のすべてを表していた。

「この世界には、変わらないものなんてない。」

地球は自転している。

公転している。

そして地軸も、長い年月をかけて少しずつ向きを変えていく。

今、北極星として見えているポラリスも、一万二千年後にはベガへと変わるという。

宇宙には、止まっているものなど何一つない。

ならば、人の苦しみだけが永遠であるはずもない。

今は夜でも、やがて朝は来る。

それは努力したからでも、無理に前向きになったからでもない。

地球が回り続ける限り、夜明けは誰にでも平等に訪れる。

そして、この映画はもう一つ大切なことを教えてくれる。

夜がなければ、星は見えない。

夜だからこそ見える景色がある。

夜だからこそ気づけることがある。

だから、夜は決して悪いものではない。

悩んでいる時間も、足踏みしている時間も、人生から消すべきものではない。

その時間があるからこそ、人は誰かの痛みに寄り添えるようになる。

『夜明けのすべて』というタイトルは、「夜をなくす」物語ではなかった。

夜も、夜明けも、そのすべてが人生なのだと静かに語りかけるタイトルだったのである。

おわりに

この映画は、パニック障害とPMSをそれぞれ抱えた主人公たちの日常をとおして、

「普通を目指さなくていい。」

という言葉を得た。

そんな優しい言葉から始まり、最後には宇宙の視点まで私たちを連れて行ってくれた。

主人公たちが生きている世界は、本当に小さい。

その小さな日常を、プラネタリウムや天文学の話によって、一気に宇宙規模へと広げた。

「あなたの悩みも宇宙の一部なんだよ。」

と、優しく包み込んでくれる。

人も、環境も、時間も、世界も変わり続ける。

だから、変化を恐れる必要はない。

もし今が夜だとしても、大丈夫。

地球は今日も静かに回り続けている。

そして、その先には必ず、それぞれの夜明けが待っているのだから。

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