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『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち(1997年)』――人との出会いが、人生を動かしていく

  作品データ

作品名:グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち( Good Will Hunting  )

公開年:1997年(日本公開:1998年)

監督:ガス・ヴァン・サント

脚本:マット・デイモン

   ベン・アフレック     

出演:   

  • ロビン・ウィリアムズ
  • マット・デイモン
  • ベン・アフレック
  • ステラン・スカルスガルド
  • ミニー・ドライヴァー

上演時間:127分

製作国:アメリカ

ジャンル:ドラマ・青春

画像出典:TMDb(The Movie Database)

『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』を初めて観たとき、私はこの映画を「隠れた天才青年が、その才能を見つけてもらい、救われていく物語」くらいに思っていた。

そして最後には、彼女のもとへ向かう。

今思えば、ずいぶん単純な見方をしていたなと思う。

しかしこの映画は、そんな一人の青年の成長物語だけではなかった。

ウィルが人と出会い、その人との関係の中で少しずつ変わっていく。

そして、ウィルと出会った人たちもまた、ウィルとの関わりによって変わっていく。

この映画で描かれているのは、そんな「人と人が出会うこと」の力なのだと思う。

天才であることが、ウィルを幸せにはしなかった

世界屈指の天才が集まるマサチューセッツ工科大学で、アルバイト清掃員として働く孤児の青年ウィル・ハンティングは、非凡な才能を持つ、まさに天才だった。

数学の才能はずば抜けていて、学生たちが苦戦する問題も簡単に解いてしまう。

でも、その才能をどう生かして生きていきたいのか、本人にも分からない。

それどころか、夜の街でけんか騒ぎを起こしては、何度も鑑別所送りになっているような生活を送る。

非凡な天才なのに、まともな教育も受けず、自暴自棄な態度ばかり取るウィル。

人との距離を取ることで、自分を守っているようだ。

誰かが近づいてくれば、皮肉や挑発で追い返す。

傷つけられる前に、自分から相手を傷つける。

関係が深くなりそうになると、壊してしまう。

それは、才能があるからこそできることでもあった。

「自分にはこれだけの才能がある」というものを盾にしていれば、本当の自分を誰かに見せなくても済む。

自信家で、皮肉で、人を寄せ付けない。はっきり言って、イやな奴。

そんなウィルに必要だったのは、「数学の才能を認めてくれる人」ではなく、

その奥にある、傷ついた人間そのものを見てくれる人だったのだ。

ショーン先生のセラピーは、一方通行ではない

そこで出会うのが、ショーン先生だ。

ウィルのセラピーを担当する心理学者だが、この二人の関係が面白い。

ショーン先生は、ウィルにいろいろなことを問いかける。

「君は何をやりたいんだ?」

「親友はいるか?」

ウィルは、その問いには答えず、はぐらかすばかり。

でも、これらの質問は、そのままショーン先生自身にも返ってくる。

妻を亡くして以来、ショーン先生の時間も止まっていた。

人を愛すること、誰かと深く関わることを、どこかで止めてしまっている。

つまり、ショーン先生もまた、自分の人生をどう生きるのかを考え直さなければならない人だった。

だから、このセラピーは「先生がウィルを治す」という一方通行のものではない。

ウィルの心を開いていくことは、ショーン先生自身がもう一度、誰かと深くつながっていくことでもあった。

「君は悪くない」

そして、何度観ても胸に残るのが、ショーン先生の言葉だ。

「It’s not your fault」

「君は悪くない」

ウィルは最初、それを受け入れようとしない。

いつものように反発する。

でもショーン先生は、繰り返す。

「君は悪くない」

何度も、何度も。

この言葉は、ウィルの過去を消してしまう魔法ではない。

過去に傷ついたウィルに対して、「もう自分を責めなくていい」と伝える言葉なのだと思う。

この言葉は「愛」そのものだ。

過去に縛られている心を、無理やり引っ張り出すのではなく、やさしくほどいていく。

まるで祈りのような言葉だ。

そして、その言葉を言えるのは、ショーン先生自身もまた傷を抱えているからなのだ。

ウィルが初めて、自分を許す

ついにウィルの涙があふれ、ショーン先生に抱きつく。

ここは、ウィルの人生で初めての「解放」の瞬間だったのではないだろうか。

ウィルはこれまで、人を遠ざけることで自分を守ってきた。

傷つくくらいなら、先に傷つける。

大切になる前に、関係を壊す。

そうやって生きてきた。

でもショーン先生の言葉によって、ようやく、

「自分を許してもいい」

と思えたのではないか。

ウィルは最後に「赦してくれ」と言えるようになる。

人に謝るということは、自分の弱さを認めることでもある。

ずっと強がっていたウィルが、それをできるようになった。

それは、とても大きな変化だった。

チャッキーは、ウィルを送り出す

チャッキーは、いつもウィルとつるんでいる親友であり、理解者。

彼の存在が、実はいつも、ウィルを支えている。

毎日のようにウィルを車で迎えに行くが、ある日もし迎えに行ったとき、ウィルがそこにいなかったら――。

もちろん悲しい。でも、こんなに嬉しいことはない。

常にそんな思いを胸に、ウィルと接している。

いつもつるんで、ふざけ合っていても、自分とウィルは住む世界が違う。

「お前はここにいるべきじゃない」

「俺たちはこのままでもいい。でも、お前は違う」

この言葉には、チャッキーのウィルへの愛情が全部詰まっている。

「俺たちと一緒にいればいい」と引き止めるのではなく、

「お前はもっと先へ行け」

と送り出す。

全肯定と突き放しが、同時に存在している。

チャッキーはウィルにとって、親友であり、兄のようでもあり、親代わりのような存在だったのかもしれない。

だからラストのウィルの旅立ちは、単なる就職や恋愛のための旅立ちではない。

親離れにも見える。

これまで自分を守ってくれていた場所から、自分の人生へ踏み出していく瞬間なのだ。

この映画には、いろいろな「愛」がある

考えてみると、この映画に登場する人たちは、それぞれの形で互いを支えている。

ウィルとチャッキーには、送り出す愛がある。

ウィルとショーンには、癒し合う愛がある。

ショーンとジェラルドには、信頼と友情がある。

そしてスカイラーとの関係には、恋愛だけではない、ウィルが初めて誰かに本当の自分を見せようとする難しさがある。

スカイラーという女性も面白い。

ただ「天才青年を救うヒロイン」ではない。

自分の考えを持っていて、ウィルに対しても遠慮なく踏み込んでくる。

だからウィルは、彼女の前でも逃げたくなる。

誰かを好きになるということは、その人に自分の弱さまで見られてしまうことだからだ。

ウィルだけが変わったわけじゃない

この映画を観終わって改めて思う。

ウィルは、人と関わることで変わった。

でも、それだけではない。

ウィルと出会ったことで、周りの人たちも、それぞれ次の一歩を踏み出している。

ショーン先生も、止まっていた人生を動かし始める。

チャッキーは、親友を自分のそばに置いておくのではなく、送り出す。

ショーン先生とジェラルドとの関係にも、新しい変化が生まれる。

つまりウィルは「救われるだけの人」ではない。

そしてウィルだけが「救われる人」でもない。

誰かと出会うことで、その人自身もまた、誰かの人生を動かしている。

人間関係って、そういうものなのかもしれない。

そして、ウィルは旅に出る

ラスト。

ウィルは、誕生日プレゼントにもらったポンコツ車でカリフォルニアへ向かう。

それまでのウィルなら、きっと行かなかった。

何かを始める前に、理由をつけて逃げていたかもしれない。

でも今度は違う。

自分で決めて、自分の人生を動かすために車を走らせる。

その姿が、とても爽やかだ。

大げさな成功物語ではない。

天才だったウィルが、突然すべてを手に入れたわけでもない。

ただ、自分の人生を自分で選ぼうとしている。

それだけなのだ。

でも、それがウィルにとっては、とても大きな一歩だった。

誰かと出会うことで、人は変わっていく

繰り返しになるが、初めてこの映画を観たとき私は、

「天才青年が発見されて、救われて、最後は彼女のもとへ行く話」くらいに考えていた。

今思うと、ちょっと恥ずかしい(笑)。

しかし、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』は、そんな単純な物語ではなかった。

才能を盾にして孤独に生きてきた青年が、人と関わることで少しずつ自分を解放していく。

そして、その青年と出会った人たちもまた、自分の人生を動かしていく。

人は、一人で変わることもある。

でも、誰かとの出会いがなければ開かなかった扉も、きっとある。

この映画が教えてくれるのは、そんな「出会い」の力なのだと思う。

そして最後に、ウィルは一人で車を走らせる。

でも、もう孤独ではない。

彼を送り出してくれる人がいる。

待っていてくれる人がいる。

そして、自分から誰かを愛することもできる。

あのポンコツ車でカリフォルニアへ向かうラストが、何度観ても気持ちいい。

人生は、ここから始まる。

そんなふうに思わせてくれる映画だった。

この棚の本

  • セント・オブ・ウーマン/夢の香り
  • ニュー・シネマ・パラダイス
  • 夜明けのすべて

映画は、誰かと出会うことで、自分でも知らなかった人生に踏み出す勇気をくれる。

そんな一本に出会えたなら、私はこの図書館に並べていきたい。

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