choose。日常的で気軽なものから、命がけのヒリヒリしたものまで、人は常に選択の連続で今に至る。
物語の世界でも、この「選択」を分岐点として無数のマルチバースが枝のように伸びてゆく、という考え方はもう当たり前に語られていて。で、ここはゴッサムシティ、汚職警官とマフィアの癒着で治安が最悪。そこに現れた地方検事のハービーデントは、公平な事が何よりも最優先で、物事をコイントスで決めるのだが、そのコインは両面表、つまり初めから答えは自分で決定しているという正真正銘の正義漢なのです。
ジョーカーの罠にかかり、顔の半分と一緒にコインの裏側が焼かれるまでは。表が正義、裏が悪。光と影。表裏一体。
勧善懲悪ではなくどちらに転ぶかの問題だというしっかりとしたメッセージを、このアメコミの世界でカッコいいだけじゃなく見事に構築しています。
そしてそのメッセージを語るために、完全悪、絶対悪のジョーカーの存在が不可欠となってきます。全くブレない純粋な悪という狂言回しです。
街がバットマンを必要としない日を目指すブルースにとっては、ジョーカーは一対一の宿敵というよりは、次から次に現れる悪党の内の一人でしかないのかもしれないけど、ヒースレジャーはその完全悪を全身全霊で演じました。演じたというか、ジョーカーとして存在しました。
自分の人生の暇をつぶす為に犯罪を犯すような、そんなジョーカーがそこに確実に居ました。その端正なお顔立ちも白塗りメイクですっかり隠し、一躍脚光を浴びる事となったブロークバックマウンテンの時とは全く違った演技で挑んだ。
また全然違うものを見せてもらいたかった。
残念で残念で仕方ない。