アクション ドラマ・コメディ 史上最高の映画100本

第52位:ウエスタン(1968年)

 西部劇

・脚本:セルジオ・レオーネ(荒野の用心棒、夕陽のガンマン、続・夕陽のガンマン)

・監督:セルジオ・レオーネ

・出演:チャールズ・ブロンソン(特攻大作戦、戦うパンチョ・ビラ、さらば友よ)

    ヘンリー・フォンダ(ファイヤークリークの決斗、絞殺魔、刑事マディガン)

    クラウディア・カルディナーレ(8 1/2、熊座の淡き星影、プロフェッショナル)

    ジェイソン・ロバーズ(裸足のイサドラ、聖バレンタインの虐殺、墓石と決闘)

・1968年/米・伊/165分

 さて、「ウエスタン」の あらすじです。ネタバレ、というか、観たまんまを文字にしていきますので、ご注意ください。

セルジオ・レオーネのオープニング美

 いつものように今回も、濃ゆい顔に薄汚れた3人のガンマンたちの無言のシーンで始まる。

三人は駅で何かを待っているが切符を買わないことから汽車を待ってるのではない。

きしんだ音を立てて回る風車、天井から滴る水滴、顔の周りにしつこく止まるハエ。

それらで表現されるじわじわと流れる時間の経過、主人公の登場を焦らされる。

レオーネ節炸裂である。

そこへようやく乗り入れる蒸気機関車。

銃に弾を込める。

三人が待つ人物が乗っているのだろうがなかなか現れない。

と思ったら過ぎた列車の向こうにハーモニカを吹く一人の男ハーモニカ(チャールズ・ブロンソン)が立っている。

モリコーネの音楽(今回はハーモニカの旋律)と男の登場シーン、そして少なめな会話。

フランクと言う男の子分らしい。

「俺の馬は?」「1頭足りないなぁ」「いや、2頭余る」の後の発砲。

ズキューンズキューン。バタバタバタッ。

そして相変わらずきしんだ音を立てて回る風車。

よっ、待ってました!ウエスタン!!オープニング美が凄まじい。

マクベイン一家

 狩猟をして庭でパーティーの用意をしている農場一家。

元気で快活そうな男の子ティミー、堅実で働き者で奥ゆかしい長女モーリン、母の死を引きずりながらも継母を駅に迎えに行くことを仰せつかった長男パトリック、そして美しくて若い後妻を迎え、今後きっと金持ちになると言って幸せ絶頂、赤髪のアイルランド人で父親のマクベインである。

新しい家族が到着したら盛大にパーティーをしようというときに、轟く銃声。

モーリンが倒れる。

「モーリーン!!」叫んだと思ったら、次々にマクベインとパトリックが撃たれ倒れる。

残る一人となった幼いティミー。

いったい何が!?悲しげな音楽と共に現れたフランク(ヘンリー・フォンダ)含む5人の悪党たちが現れる。

一人が「どうする?フランク」と言うと、ヘンリーフォンダ演じるフランク「名前を聞かれた」からと幼いティミーを撃つ。

笑顔で。

何て言い草、何て鬼畜の所業。

アメリカの良心ヘンリーフォンダが、これまでにない最低最悪の、青い瞳の悪人を演じる。

田舎町に降り立った美女ジル

 黒いドレスにストローハットの美女が、到着した汽車から駅へ降り立つ。

殺されたパトリックが迎えに行くはずだった後妻で継母のジル(クラウディア・カルディナーレ)だ。

活気に満ちた田舎町には砂ぼこりが立ち込め、そこに異世界から舞い降りたような違和感を放つ黒いドレスの美女。

最初の登場シーン、活気に満ちた田舎町には砂ぼこりが立ち込め、そこに異世界から舞い降りたような違和感を放つ黒いドレスの美女。

その姿はまるで銀河鉄道999のメーテルの様だと思いました。

西部劇の雰囲気も松本零士が描く世界と重なります。

というか松本零士がこれらの作品から少なくとも影響を受けているのではないかと予想すると、松本ファンとしても嬉しい気持ちになりました。

約束の時間を過ぎても迎え役が現れないため、陽気なオヤジの馬車に乗り、目的のスイートウォーターマクベイン農場へ向かう。

このオヤジ、「こんな所にまで鉄道を敷きやがって」と、鉄道なんかより俺の馬車の方が小回りもきくし速いぜと言わんばかりに、猛スピードで馬車をぶっ飛ばす。

開拓時代フロンティアを生きる男だ。

汽車と張り合いつつも途中の休憩所に立ち寄る。

馬たちにも干し草を食べさせ休憩させなくてはならない。

「汽車も停まるぜ」。やっぱり張り合ってるんだ。

ジル、山賊シャイアン、謎のハーモニカ 三人が出会う

 休憩所(ドライブインみたいなところだろう)に立ち寄る。

美女を前にご機嫌に対応する店主としばし雑談。

「東部の都会からいらっしゃったんですか?」

「ニューオーリンズから」

すると外から馬の停まる音とともに銃声と物騒な音が聞こえる。

男が一人入ってくる。

手錠を掛けられたシャイアン(ジェイソン・ロバーズ)だ。

賞金首が役人を撃ち殺して逃走したところだった。

こちらのジェイソン・ロバーズはちょうど「続・夕陽のガンマン」のトゥコのような風貌。

ちなみに「テキサスの五人の仲間たち」(1966年)でヘンリーフォンダと共演していました。

そちらは全然知らない監督さんによるコメディで、本作とは全く関係ありませんが、とっても面白いので「騙されたと思って」観てほしい作品です。

すると今度は店の奥から例のハーモニカの旋律。

こんな所で偶然にも役者が揃った。

シャイアンが着ているダスターコートは、ハーモニカが先ほど撃ち殺した奴らが着ていたのと同じものだった。

ミセス・マクベイン

 馬車で農場にたどり着くと、4体の遺体を前に葬式が執り行われていた。

そこで事態を知るジル。

継子になるはずだった子供たちの有り得ない姿を前に涙する。

ジルに対し「よりによってお嫁入りのこんな日に、かわいそうなお嬢さん・・・」という参列者。

それに対し「ミセス・マクベインよ」。ひと月前に既に結婚したという。

嫁入り早々未亡人になったジルは、家の中を物色するが金目の物は何も出て来ない。

「STATION」と書かれたミニチュアの建物なんて何の役にも立たない。

こんな所でこれからどうやっていこうか、さっさと出ていこうか・・・。

次の日ふとシャイアンがやって来る。

普通に会話をしているが、仮にも亡き家族を殺害した容疑で追われている男だ。

「俺は何でも殺すが子供だけは殺らん」との事。

殺害の目的は?罪を着せられたが理由は?この家に値打ちが?

「探したけど金なんて無かった」。

山賊に対して恐れることなくタンカを切る女ジル。

ジルとシャイアンは、コーヒーを挟んでいつの間にか意気投合していました。

出自こそ全く違うでしょうが、たくましく生きなければならなかった境遇がどこか似ていたのでしょう。

シャイアンの母親はその土地で一番の娼婦で偉い女だったそうです。

コーヒーも美味かった、そうです。

男の「マザコン」が、垣間見えるシーンです。

鉄道王モートンと悪党フランク

 マクベインの土地に鉄道を敷いている起業家モートンと悪事を語るフランク。

殺すことは無かった、脅すだけでよかったのに。

ビジネスマンが殺し屋を使って土地の利権を脅し取るつもりが、一家皆殺しにしてしまった。

そこには想定外に後妻がいたという話だった。

こうなったらその後妻がターゲットだ。

 こういう話は当時本当にあったのでしょう。

開拓時代という背景の負の産物でしかないです。

そしてこの後間もなくしてアメリカにもマフィアが台頭する時代がやってきます。

フランクも既にマフィアのように黒幕然としています。

武器より金、という時代、金より強い武器もある、という時代はすぐそこです。

この男も時代の流れに抗えない者の一人という事でしょうか。

それぞれの目的

 殺人現場に残されたコートの切れ端は、容疑をシャイアンに被せようとしたフランクのトリックであり、それに気づいたハーモニカ。

そもそもハーモニカとフランクの間には何か只ならぬ因縁があるらしい。

一方、ジルは土地の事など何も知らない。

金目当ての結婚ではなかったというわけだ。

澄んだ目で結婚を申し込まれ、田舎もいい、子供が何人いても構わない、家の面倒も見る。

そう思わせてくれた男がたまたま金持ちだっただけよ。

その金も今はどこにもないが。

そんな事をシャイアンと話す。

「幸せになれ」「そう言ってくれた人は墓の下よ」。

 フランクに執着していたハーモニカは、ジルを使って子分をおびき出し、そこからフランクを探し当てるが捕まってしまう。

縛られたハーモニカとフランクの対峙。

ハーモニカの脳裏に遠い記憶が蘇る。

一人の男が近づいて来るぼんやりとした光景。

数日前にフランクを呼び出した時、代わりに現れた三人を殺したことを告げるハーモニカ。

何の用だ、誰なんだと全く覚えていない様子のフランク。

「お前は誰だ」次々に死んだ男の名を述べる。「そうだお前が殺したんだ!」

パンパンパン!往復ビンタ炸裂!!「Who are you!!」 

後を追ってきたシャイアンに助けられる。

思っていたより頼りになる。

フランクに謎の恨みを持つハーモニカと、フランクに殺人の罪を着せられたシャイアン。

二人が手を組むのは自然の事だった。

マクベイン農場の価値とは?

 マクベインの土地に、農家が8軒建てられるほどの大量の木材や杭やクギなどの道具が届く。

何も書かれてない看板もある。 

死ぬ前にマクベインが発注したものだ。

「これが大事だと聞いてるが、何を書くのか聞いてない」という看板。

それを見て思い出したのは「STATION」のミニチュア。

夫は駅を建てるつもりだったのだ。

その周りには町も作ろうとしている。

アイルランド人らしい遠大な計画だ。

権利書には「鉄道がここまで来るまでに駅ができてないと権利を失う」と但し書きがある。

鉄道が先か駅が先かの競争だ。

フランクの悪事と、モートンの裏切り

 フランク一味から命を狙われていることを知るジルは、亭主を殺した男フランクに身を捧げる。

「生きるためなら何でもするのか」「そうよ」「ニューオーリンズの高級娼婦だったことも知ってる」。

土地を競売に出せば命は助けてやると言ったのだろう。

フランクのに言われるがまま、ジルは320エーカーの土地と建物、家畜などすべて競売に掛けた。

 一方鉄道王モートンは、自分の言うことを聞かなくなったフランクを切ろうと、フランクの子分を買収した。

競売に出された土地を安く買いたたいた後、買収されたフランクの子分がフランクを殺すというシナリオだ。

5000ドルの男

500ドルという安値で落札かと言う所で、「5000ドル」という声を上げたのはハーモニカ。

今すぐその金を持ってくる、と言って差し出されたのはシャイアンだった。

そう彼の首に掛かっている賞金が5000ドルだった。

農場の土地をフランクたちに渡さないよう二人は組んだのだった。

その後はまた、いつものように逃亡すればいい。 

案の定、停車した鉄道の周りに死体がゴロゴロ。

5000ドルの為にお縄になったシャイアンが護送中に脱出したのだ。

そこにはモートンもいて、外で息絶えた。

フランクとハーモニカ

フランクの目論見はまんまと潰され、更にモートンから買収された自分の子分たちから命を狙われることになる。

フランクの助太刀をするハーモニカ。

なぜかって、それは自分の手でフランクを葬らなければならないから。

ハーモニカの目的は金でも女でもなく、フランクの命をこの手で終わらせることただ一つなのだ。

一騎打ち

 いよいよ決着の時が来た。一対一の勝負だ。

ハーモニカとフランクの因縁の対決。

というか、フランクはハーモニカの事を全く覚えていない。

一方的にフランクを憎んでいるハーモニカ。

二人の関係とそのハーモニカに隠された過去とは・・・!?

 ここの顛末は語らないことにします。

是非鑑賞してください!!

 ラストシーン、ジルはシャイアンに言われた通り、男たちに酒を振舞う。

遠い異国からやって来たかの美女の周りには、汗まみれの男たち。

いつの間にか西部の砂漠の空気に馴染んでいるジルが手にした「この町」は、確実に伸びる。

アメリカ西部の開拓が今まさに始まった。

 ハーモニカはあの後、5000ドルを手にするのだろうか。

飄々としたモリコーネの音楽で終わるのが印象的。

セルジオ・レオーネ「ワンス・アポン・ア・タイム三部作」

 いわゆる「ドル箱三部作」に続き、いわゆる「ワンス・アポン・ア・タイム三部作」。

前作「続・夕陽のガンマン」を完成させたセルジオレオーネ監督が本格的にハリウッド進出を図り、西部開拓時代から近代までのいずれも「アメリカ」を舞台にした「ウエスタン」「夕陽のギャングたち」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」の三作を指します。

それぞれの時代背景は、西部開拓時代の1890年頃、メキシコ革命中の1913年、禁酒法が施行された1920年頃から1970年頃までと、三作でアメリカの時代の流れと、それに翻弄された人々の人生の一部を切り取った作品となっています。

原題は「 Once Upon a Time in the West(昔々、西部で)」、「Duck,You Sucker(伏せろ)」「 Once Upon a Time in America(昔々、アメリカで)」。

 「夕陽のギャングたち」はそのタイトルからもパッとしない印象ですが、レオーネ作品必須の、さり気なく見せる男の友情や裏切り、そしてド派手な爆破や強奪を、滑稽にニヒルに見せてくれる名作です。

 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」は唯一西部劇ではなく、また劇中で50年以上の歴史が流れるという壮大で濃密な作品になっていますが、やはり必須である男の友情の物語です。

さすがに50年も時間があるとその友情には嫉妬や執着も含まれたり、懺悔や誤解もあるし、疎遠のままの死別などもありますが、変わらず永遠に昔のままの友情は何よりも美しいという、レオーネにしてはメッセージ性の深い作品です。

何といっても、これが監督の遺作となってしまったのですが、かくも緻密な作品群の脚本監督を務めていれば、心労で心臓発作を起こしてもおかしくないくらい、映画製作に命を懸けた人生だったのだなと思います。

チャールズ・ブロンソン

 その風貌が唯一無二の存在、チャールズ・ブロンソン。

特に本作は多くのセリフより表情(顔)で演技するレオーネ作品。

それがハマらない訳がない。

復讐の感情を抑えながら、それでいてフランクを追う静かな執念を、あのほうれい線が語ります。

 ちなみに「大脱走」(1963年)では、脱出の為にトンネルを17回掘ったダニーを演じています。

76人が脱出を図り、内50人が射殺され、わずか3人だけが脱出に成功したのですが、その3人のうちの1人です。

ダニーは、トンネルを掘るのが得意なのに、閉所暗所恐怖症という何とも気の毒な役。

そんな彼が勇気を振り絞りトンネルを抜け、見事脱出に成功したのは嬉しかったというか、ほっとしました。

多くの犠牲がありましたが、なぜか清々しい気持ちにさせられる名作です。

ヘンリー・フォンダ

 「ドル箱」でいうと、リーバン・クリーフが演っているであろう悪役です。

長年主演ヒーローを演じてきたヘンリーフォンダが、残忍極まりない悪役を演じました。

つばをブッと吹き出すところとか、凄く嫌な感じです。

そしてハーモニカに対して浴びせる往復ビンタ。

あんなきれいな往復ビンタはなかなか見たことありません。

映画史上に残る往復ビンタだろうし、ヘンリーフォンダ史上にも最初で最後の往復ビンタでしょう。

アメリカの視聴者はかなりのショックを受けたことと思いますが、どんな悪事を働こうと、青い眼に渋い表情、スラっと長い足のヘンリーフォンダはカッコいい。

この役を受けてくれた事に、私は拍手を送りたいのです。

まとめ

 セルジオ・レオーネ監督はイタリア製西部劇を作り続けたイタリア人監督なのですが、「荒野の用心棒」の元ネタは黒澤明監督の「用心棒」です。

無許可だったため裁判になってしまったことは、名作なのに残念で仕方ありません。

 そんな、ジャパニーズ映画からインスパイアされたイタリア人監督が、アメリカにこだわった今回の三部作を作りました。

映画に、芸術に、国境はないということです。

そして国境を跨ぎ、時代をも跨いだ60年後の日本人でも痺れさせる事ができる。

映画ってホント、タイムマシーンのようなものです。

とっくに開発されてたんですね、タイムマシーン。

それを追いかけてしまう映画ファンの私たちは幸せです。

見れば観るほど深くて熱いセルジオレオーネ作品。

数こそ少ないですがその後の映画人と映画鑑賞者に多くを残した人物である事を改めて思い知らされるのです。

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