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グリーンブック(2018年)

実話・ドラマ・ロードムービー

Green Book

  • 監督:ピーター・ファレリー(ジム・キャリーはMr.ダマー、ふたりにクギづけ)
  • 脚本:ピーター・ファレリー
  •    ニック・バレロンガ 
  • 出演:ヴィゴ・モーテンセン(ザ・ロード、はじまりへの旅)
  •    マハーシャラ・アリ(ドリーム、ムーンライト)
  •    リンダ・カーデリニ(ハンターキラー、シンプル・フェイバー) 
  • 米/130分

さて、「グリーンブック」の、あらすじと感想です。ネタバレですので、注意!!

 「グリーンブック」とは、アフリカ系アメリカ人ヴィクター・H・グリーンによって出版された黒人のための旅行ガイドブック。1936年~1966年まで毎年発行された人気のブックで、当時アメリカは(とくに南部は)ジム・クロウ法によって黒人が使用できる宿泊施設やレストランなどが限られていた。黒人が利用できる施設を示したこの「グリーンブック」は、彼らにとっての便利グッズのようなものだったのであろう。しかしそんなものが過去に存在していたと知れば、そこには理不尽な人種差別が公的に行われていた事実がクローズアップされる。この胸糞悪い現実を、さぁこのロードムービーはどう描いてくれるのだろうか。

トニー・リップとドクター・シャーリー

 1962年、ニューヨークの高級ナイトクラブで用心棒として働くトニー・”リップ”・バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)は、腕っぷしが強く、口も巧く、世渡り上手なイタリア系アメリカ人。しかし、店が改装工事のため2か月間休業することにより、無職になってしまう。

 そんな時、「ドクター」が運転手を探しているから面接を受けてみろと紹介される。ドクターはカーネギーホールの上階に住んでいて、そこで面接が行われた。とんでもないゴージャスな部屋だ。中央にはスタインウェイのグランドピアノが置かれている。現れたのはドン・”ドクター”・シャーリー(マハーシャラ・アリ)というスマートで気品に満ちたアフリカ系アメリカ人ピアニストだった。トニーに言わせれば「ジャングルの王様みたいな服を着て、玉座に座っている」金持ちで偉そうな黒人だ。

8週間のコンサートツアーでアメリカ深南部を回るので、その際の運転手兼ボディガード、更に身の回りの世話をする人材を探しているという。作品冒頭から見てわかるのが、「このトニーと言う男にアイロンがけや靴磨きなどは絶対に出来まい」という事だ。まして相手が相手だ。以前床の張り替え業者(黒人)が家に来た時、彼らが使ったグラスをごみ箱に捨てたこともあった。それなりに差別主義者なのだ。

案の定面接は破談に終わったが、稼ぎがないと家賃も払えない。バーガー食い競争の賞金や質屋通いでは先がない。かといって紹介されるのはヤバそうな仕事ばかり。家族に迷惑は掛けたくない。

 その後ドクから、採用したい旨の電話が掛かって来た。愛妻ドロレス(リンダ・カーデリニ)は、クリスマスまでの2か月間、夫と離れることに寂しさを隠せないが、紳士的なドクターのオファーを断る理由もなく、悲しみながらも承知するのだった。

 ターコイズ色のキャデラック、地図、ツアーの日程表、そしてグリーンブックを渡され旅は始まる。生まれて初めてそのブックを手に取った時、いくら粗野で少々差別的なトニーでも、複雑な心境になりはしないか。これから8週間行動を共にし、運転手として従う相手が、グリーンブックを必要としなければならないというのだから。今から始まる旅を、少しでも憂慮する気持ちになるのではないか。

だがこの男はそこまで繊細ではなかった。荷物はドンの使用人(インド人系)に積ませ偉そうにしているし、「ドイツ野郎はこすからくて油断できない」とか「ピッツバーグの女は巨乳だ」などと根拠のない偏見極まりない発言を、ひたすらしゃべりまくる。

 さて、ガサツで差別主義のイタリア系アメリカ人と、繊細で上品なアフリカ系アメリカ人、二人の旅はいかに?

そして、トニーはクリスマスイヴまでに帰れるのか?

この世は複雑だ

 最初の宿泊で「ドン・シャーリー・トリオ」のメンバー、チェロのオレグ(ロシア人)とベースのジョージ(アメリカ人)が白人女性と楽しそうに談笑している。それをバルコニーの上から眺めるドン。高級なシルクのガウンを身にまとい、独りでウイスキーを飲んでいる姿はとても寂しそうだった。

 3歳でコンサートステージに立ち、ずっと上流階級の人間たちを相手にしてきたドクは、上品な立ち居振る舞いが染みついていた。対してトニーは、デタラメを言っては人を上手くあやつるというその話術から、”リップ”と言う品の無いあだ名で呼ばれ、口を開けば「糞食らえ」だの「ケツの穴」だのと言う奴だ。ドクが眉をひそめて注意しても自分を曲げようとはしないのだった。

 初めて聞くドクの演奏は、そんなトニーの心にも響くものがあった。「すげぇ上手い」。

 旅に出る前、妻のドロレスと約束した手紙を書く。手紙なんてそんなもん書けねぇよと言っていたが、可愛い妻の事を思い、一生懸命書くのだった。「ドクのピアノは黒人らしくなくリベラーチェの様で、アイツは天才だ。」リベラーチェとはクラシックピアノからポピュラーに転向し、ナイトクラブなどで演奏したスターピアニストだそうだ。ショパンも知らないトニーにとっての大賛辞なのだろう。「ただ車のバックミラーで見るドクはいつも楽しそうじゃない。」とも綴る。

 道中ドライブインで、トニーは地面に落っこちた売り物の翡翠石を拾って、ポケットに入れてしまう。それをドクにとがめられ「落ちてた石ころだ、盗んでない」と言い訳をするが「戻してこい、でなければ買ってやろう」と言われる。だが買ってもらったら価値がないと、怒って元に戻しに行った。金で買う事に価値はない、拾ったことがラッキーなんだと。そしてその翡翠石をお守りにしようと思ったと言う。盗むのは良くないが、この感覚分からなくもない。対してドクは欲しければ金で買えばいいと言う。二人の価値観の差が見て取れるシーンだった。

移動中の車でラジオからリトル・リチャード、アレサ・フランクリンが流れるが、ドクはどれも知らない。「全部あんたと同じ人種だろ?」このトニーと言う男は、発言は差別的だが、完全な差別主義者とは少し違うのだ。黒人は皆フライドチキンが好きだという偏見も、トニーにとっては差別発言ではない。「オレはイタリア人が皆ピザが好きだって言われても全然平気だぜ」

本当の差別的人間は、約束のスタインウェイの代わりにゴミだらけのピアノを用意し、「黒人はどんなガラクタでも弾くんだよ」と発言するような奴だ。

気取った黒人がバーでウイスキーを飲んでるというだけで絡んでくるような奴もいた。

服屋で試着を断られたときは、笑顔を作って店を出たが、その日の演奏は荒れた。そして同性愛の男性と逢引きして警察に捕まったりもした。 

黒人からも差別を受ける。白人を運転手に雇い綺麗な身なりでいれば、綿花畑で労働する黒人に睨まれる。同じ肌の色でも一緒にゲームや賭け事をやることもない。

 とにかくこの地はドクにとって生きにくい。その度にトニーから助けられる。

銃を出す振りをして暴漢を追っぱらった時は、「今後俺と離れて行動するな!」と怒鳴られた。「銃持ってるのか?」「まさか」とトニーは答えた。

警察を買収して助けてくれた時は、買収は良くないと言ってトニーのことをとがめてしまったりもした。

 ドクにとってもトニーにとっても、なかなか過酷な状況が続いたが、トニーは「この世は複雑だ」と言って、全てを理解し受け入れてくれた。

 ドクはトニーに言葉遣いやマナーを教える。トニーはドクに黒人音楽やフライドチキンの食べ方を教える。

ふたりの関係が対等になってくるのが楽しいと同時に、ドクは各所で差別を受けてしまうのが悲しい。ピアノを弾けば賛辞を受けるが、それ以外の場所では差別的な扱いを受ける。辛い事があっても演奏の後は「この町の温かい歓迎に感謝します」と言って、張り付けたような作り笑顔で挨拶する。こんな思いをしてまで南部でコンサートツアーを行うのはなぜなのだろう。そこにはドクの強さとピアノに対するプライドが隠されているのは分かるが、見ていて辛いトラブルが続く。それを見越して、トラブル処理能力に定評があるトニー・リップが雇われたんだという事も分かる。

 妻宛てに書く手紙も板についてきたが、結局何を言いたいか分からぬ文章を見兼ねて、ドクが書き方を教える。「Deer」は「鹿」だ。「Dear.ドロレス。君を想うとアイオワの美しい平原が目に浮かぶ」トニーに書けるはずのないロマンティックな手紙が出来上がった。今は離れた距離にいる女性を想って二人で手紙を書き上げる。この手紙が二人の距離を縮めるためのアイテムでもあったのだ。

世界一のピアニスト 

 ドン・シャーリー・トリオとトニーのアメリカ南下旅は、残りわずか。クリスマスが間近に迫っている。

 雨の夜道を走らせていると、パトカーに止められる。トニーとドクを確認した警官が「半分ニガーとニガー」みたいなことを言ったので、トニーはカッとなってその警官を殴ってしまう。当然逮捕されるのだが、何もしていないのに拘留されたドクは納得がゆかない。「暴力は敗北だ。品位を保つことが勝利をもたらす」とトニーを叱る。ドクの美学なのだろう。ドクは電話をさせてくれと警察署長に頼み、その結果釈放された。電話の相手は、当時アメリカ大統領ジョン・F・ケネディの弟、ロバート・ケネディ司法長官だった。

ホワイトハウスでの演奏で培った人脈だろうが、ドクは司法長官に迷惑をかけたことを恥じた。国を動かす兄弟に対して、自分たちはド田舎の警察で暴行罪に問われ、助けを求めた。人間のクズだと叱責する。それは自分が「権力」を使った事も「暴力」と同じ事だという自責でもあった。そして激しい口論になる。「黒人でも白人でもなく、男でもない、私は何なんだ!?」ドクの口から初めて本音を聞いたトニーだった。

アンダーグラウンドな地に身を置きギリギリな生活をする白人と、上流階級の世界でセレブな生活を送る黒人。貧乏ながらも、手紙と帰宅を待っている多くの親戚家族を持つトニーと、好きなピアノの腕一本で富と名声を得ても、その職業故に家族と疎遠で孤独になってしまったドク。置かれた状況は違えど、気持ちをぶつけ合ったことで、対照的な二人は互いの気持ちを初めて理解するのだった。

 単純人間のトニーにはドクのような繊細さは無いから、何でも口に出して言ってしまう。逆にドクは自分の気持ちや寂しさなんかを内に秘めてしまう性格だ。タバコが嫌いならそう言えばいいのに、言わなきゃ分からないだろ。寂しいときは先にこっちから連絡しなきゃ。トニーがドクに伝授する生活の知恵みたいなやつだ。

そしてもう一つ、トニーが旅の間ずっと気に掛かっていた事をドクに打ち明ける。「ピッツバーグの女は巨乳じゃなかった。」

 そしていよいよツアーのラスト、バーミングハムでのクリスマスコンサート。コンサート会場に到着したドクをVIP客として歓迎する支配人だったが、案内された控室はまさに「物置」だ。こんな待遇にはうんざりだが、本番前にレストランで食事をしようと言って、その物置のような控室に入りそっと荷物を置くドクだった。

しかしそこは白人専用レストランだったため、ドクは入り口で入店を拒否されてしまう。VIP客なのにおかしいだろとトニーがオーナーに抗議するが、ルールですからと受け入れてくれない。こんな時今までのドクなら、トニーもういい、黒人が歓迎されない所で食事なんかしたくない、とでも言ってその場を収めてしまっていただろう。しかし今回は違った。「ここで食事できないなら演奏会はやらない」と言ったのだ。でも結局「トニーが望むなら、演奏しよう」と譲歩する。ドクの勇気を感じたトニーは「こんな所出てこうぜ」と言って、別の黒人専用レストランに向かうのだった。

 クラブ"オレンジバート”は、店内は全員黒人で、燕尾服姿のドクと白人のトニーはかなり場違いな様子だった。ジロジロと好奇の眼で2人を見る他の客を気にもせず、ドクはカウンターで食事を注文し、現金を数える。完全アウェイの空気感だ。声をかけてきた女の店員に、トニーが「彼は世界一のピアニストなんだ」とドクを紹介する。「弾いてみてよ」と言われ遠慮がちにステージに上がり、ジャケットのテールをひるがえしてピアノの前に座る。乗せてあった酒のグラスを下ろしてから、ショパンの練習曲を一節弾く。この場には似つかわしくないクラッシックだ。

幼少期よりクラッシックピアノを学び訓練してきたが、レコード会社からは酒のグラスをピアノに乗せてタバコをくゆらせるような黒人エンターテイナーになれと言われてジャズピアニストになった。そんなドクの演奏に惚れたトニーが以前「クラッシックだけににこだわらなくたって、あんたのピアノはあんただけだ」と言ったことがある。ドクは「サンキュー、トニー、でも私が弾くショパンは私だけだ」と答えた。これがドクのプライド。

ドクのショパンに一瞬目を見張った観客たちだったが、明らかに場違いなドクに対し、盛大な拍手喝さいを贈った。ドクにとっては演奏後の称賛なんて日常茶飯事だ。いつものように作り笑顔で挨拶をする。すると店付きのバンドマンたちが次々に参入し、ドクのアドリブでセッションが始まる。曲はもちろんクラッシックではなく、ブルースだ。ほろ酔いの客たちは皆自由に踊り、ドクも調子に乗り立ち上がってピアノを弾いてる。こんなに楽しそうなドクは初めてだ。そして黒人から認められたのも初めてなのかもしれない。

演奏を終えて店を出ると上機嫌なドク。車を物色する強盗を発見し、とっさにバンバーン!と二発威嚇射撃するトニー。「酒場で現金を見せるな」とトニーから酒場での常識を教わるドクは、「やっぱり銃持ってたんだ・・」と冷静に戻るのだった。

メリー・クリスマス

 ツアーのラストコンサートは、ドクが自分の勇気を貫きすっぽかしてしまったが、ブルースバーでのセッションは旅の最後を飾るにふさわしいステージだった。

すぐに出発すればニューヨークのクリスマスイヴに間に合う。

そのまま車を飛ばしニューヨークを目指すと、降っていた雨が雪に変わる。カーラジオはドライバーに注意報を伝えている。不安なトニーに対し、「あのお守りの石を出して置けばどうだ」と言うドク。「あんたも面倒な奴だ」と苦笑いをして石を出す。ドクはトニーが翡翠石を返さずに持っていた事に気付いていたのだった。旅はもうじき終わろうとするという今、互いをまた少し理解し、笑顔がこぼれた。

 雪はどんどん深まり、いよいよ走行も危険なレベル。そんな時に有ろうことか、またしてもパトカーに止められる。「Oh, shit! goddamn cops!!」とトニーが毒づくのも無理はない。ここまで来てまた捕まるのか、この前の時は大雨だった。万事休す、今日中に家にたどり着くなんてもう無理だ。降りて来た警官が車の中を懐中電灯で照らして確認する。「パンクしてるぞ」「え!?」タイヤのパンクを指摘し、車の誘導までしてくれた。そしてタイヤ交換をし終えると「気を付けて、メリー・クリスマス」「メリー・クリスマス」。雪の中で警官が運転手に向かって言うセリフにしてはおしゃれ過ぎである。日本の警察もぜひ真似をしたらいいと思う。

 一難は去ったが、今度はトニーに睡魔と言う魔物が襲う。もう家までかなり近づいているはずだが、大雪と睡魔には勝てそうにないのだった。

 一方、トニーの自宅では親戚一同が集まって、主不在のままにクリスマスパーティーが始まろうとしている。妻のドロレスは寂しそうに、そして忙しそうにご馳走の準備をしていた。

トニーもトニーの家族も、もうイヴには間に合わないだろうと諦めかけたとき、何とドクが車のハンドルを握り、眠気と闘いながらニューヨークのトニーの家を目指し走らせていたのだ。後部座席でドクの毛布を掛けて寝ているトニーを起こすドク。トニーを車から降ろし帰ろうとするドクに、「待て、家族に会ってけよ」と言うが、「メリー・クリスマス、トニー」と別れを告げる。条件反射のように「メリー・クリスマス」と返すトニー。ドクは大雪が降る中、キャデラックを運転し帰って行くのだった。

 トニーは家に入ると多くの親戚家族から歓迎され、「メリー・クリスマス」「ボン・ナターレ」とハグやチューの嵐。イタリア語のメリー・クリスマスだ。温かい部屋にはたくさんのご馳走。たわいもない会話で盛り上がる家族たちを見ていると、長旅で疲れていたとしても改めて幸せを感じる。しかし今頃あのお城のような家にたどり着いたドクは、同じく疲れた身体でたった独りのイヴを迎えているのだろう。それを考えると自分は賑やかな家族に囲まれているのに、なぜか寂しさを感じるトニーだった。

 ドクの家では、使用人が帰りを待っていてくれた。荷解きを手伝うという使用人に対し、今夜はもう家に帰れと、優しく言う。「サンキュー、メリー・クリスマス、サー」「メリー・クリスマス」

独りになったドクは例の玉座ではなく普通の椅子に座り、一つため息をつく。トニーが車に置いて行った翡翠石を手に取り、長かった旅の事を想う。トニーとの衝突や楽しかった会話、そしてキャデラックと同じ色の翡翠石は、二人の旅の象徴のようだ。改めて寂しさを感じたドクは、トニーからいつか教わった事を思い出すのだった。「寂しいときは自分から動かなきゃ」

 トニーの家のドアを、来客がノックする。トニーが出ると、質屋のおやじだった。手土産なしかよ、などと言いつつ、「メリー・クリスマス」ハグとチューで皆に歓迎される。また賑やかになる。温かい家族たちだ。

そしてドアを閉じようとすると、何とそこにドクが立っていた。上品なファッションで、手にはシャンパンを持っている。「ドク!よく来たな」。ついさっき別れたばかりなのに。驚きと笑顔で強く抱き合うトニーとドク。家に招き入れ、少し緊張気味のドクを皆に紹介する。ドクは笑顔で「メリー・クリスマス」。一同一瞬固まったものの、慌てて歓迎する。そしてドロレスとの対面「メリー・クリスマス」「ボン・ナターレ。ご主人を返したよ」「手紙をありがとう」と笑顔でドクを抱きよせるドロレス。トニーにロマンティックな手紙の書き方を教えてくれて、ありがとう。そして、差別主義や偏見を捨て、以前よりずっとイイ男に成長させて返してくれた。それが何よりも、ありがとう。

まとめ

 スマートでクレヴァーなヴィゴ・モーテンセンが、家族思いで陽気なイタリア系アメリカ人を演じました。彼はイタリア系でもなければ、粗野で品がないトニーのイメージとはまったく違う俳優ですが、今回監督から熱烈なオファーを受け、14㎏増量し突き出たお腹とイタリア訛りを体得して挑んだそうです。アカデミー賞主演男優賞は残念ながらノミネートで終わりましたが、その年の受賞は「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレック。作品賞は「グリーンブック」。助演男優賞もこちらのドク役のマハーシャラ・アリが受賞しました。

 ジム・クロウ法が存在していた頃のアメリカの人種差別問題を、陽気なトニーというフィルターを通して、映画としてとても温かい作品に浄化することに成功しており、時々クスッと笑いもあります。白人に都合がよすぎるという批評もあるようですが、この作品は人種差別を弾劾するものではなく、脚本に協力したニック・バレロンガの父であり主人公トニー・バレロンガの成長記なのです。それまで差別主義者だった父が、黒人ピアニストとの旅を終え帰ってきたらすっかり差別意識がなくなっていた、と言うお話です。トニーだけでなく、ドクもしっかり成長してます。しかしもちろんヒューマンドラマだけに留まらず、胸糞悪い人種差別問題を、温かさと爽やかさで言及した作品になっていました。

 今回、この温かい作品を紹介してみましたが、「温かさ」を文字で表現することはとても難しかったです。考えさせられるとか、怒りを感じるとか、悲しいとかなどは、積極的に文字に変換しやすい感情なのですが、温かさで自然と涙が出てしまう感覚は、映画を観ないとなかなか伝わりませんね。

 人種差別問題をはらんだロードムービーは、最終的にクリスマス映画として締めくくられます。今回わたしは何度「メリー・クリスマス」と書いたことでしょう。最近ではケーキに火をつけクラッカーを鳴らすタイミングで、1年に1回言うか言わないかの言葉になっていましたが、ここでは「ありがとう」「さようなら」「おやすみ」「おかえりなさい」「いらっしゃい」など色んな意味で使われています。とにかくこの言葉の威力を感じました。全てを丸く収めてしまう、マジックワードです。

 というわけで、是非、クリスマスには「ホームアローン」もいいですが、「グリーンブック」を観ましょう! 

 おわり

 NETFLIX で、鑑賞

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