サスペンス・ミステリー ドラマ・コメディ 史上最高の映画100本

第40位:十二人の怒れる男(1957年)

 冒頭の数分、そこでは父親殺しの罪に問われた少年の裁判が執り行われ、裁判長が陪審員の役割を事務的に読み上げた後、皆で別室に移動するところからこの密室会話劇は始まります。

 後に数々の社会派作品を世に送り出したシドニールメット監督の、記念すべき最初の監督作品という事実に、映画史の奥行きのようなものを只々感じてしまいました。

 裁判のシーンは全くなかったものの、証拠や証言からも少年の有罪はほぼ確定だという空気と、「今日は今年一番暑くなるらしい」「この後メジャーリーグの試合に行くんだ」という会話なんかで、この場の空気が一瞬にして伝わってきます。

 暑いし、予定もあるし、とにかくちゃっちゃと終わらせたいんです。

 早速投票します。ギルティが11票、ナットギルティが1票。 この1票がヘンリーフォンダ演じる陪審員8番です。

 予備知識を持たずに見たとしても、ここはヘンリーフォンダですから、結果は想像の付くところです。

 つまりここで間違っていけないのは、話し合いの末、無罪かもしれない生い立ちの恵まれない少年を救うことが出来ましたとさ、という話じゃないって事です。結果は分かっているのだから。

 ここの陪審員十二人をざっくり役付けると、進行役、気が弱い者、無責任、理論的、労働者、偏見、親子関係難あり、スラム街育ち、移民、老人、優柔不断、そして中立と、この場にいる人間だけで民主主義国の話し合いが出来ちゃうっていうくらい個性派ぞろいです。

 そして実際のところ少年は本当に無罪なのか、真犯人がいるとしたら誰なのか、そんな事は一切語られません。

 民主主義というもの、その物自体について考えるというのがテーマなのです。

 人が人を裁くことの難しさ、その為には納得するまでの議論を持たなければならない。汗が流れる程の暑い密室で成されるその熱い議論が、脚本の面白さで手に取りやすいものになっています。

 議論を重ねるに連れ一人また一人と無罪に転じていく訳ですが、私が一番気に入ったのはやはり一番最後の一人です。1時間半の間ずっと怒り怒鳴っていた彼が破り捨てた写真に写っているのは、全く別人のように笑顔で笑うお父さんなのです。

 何て切ないシーンなんでしょう。

 いさぎ良く、清々しい雨上がりのラストシーンも秀逸です。

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