アクション ドラマ・コメディ 史上最高の映画100本

第50位:アラビアのロレンス(1962年)

 4時間弱の長編で、アカデミー賞7部門を受賞した大作という予備知識だけを持って、よし頑張って観るぞと気合を入れて観てみた。まず壮大な、そして長い序曲から始まり、ああ大作に手を出してしまったなと思い知らされる。観たのはデジタルリマスター版ということもあり、とにかく映像が綺麗で驚いた。そして次に思ったのが、これは中東問題の予備知識がないと無理だ、という事。

 カイロ、トルコ、アラビア、ドイツ、イギリス、中東の局面、他にもベドウィン族、ハジミ族、ハリト族、ファイサル王子・・・なんて、聞いたこともないワードが次々と出てくる。これでは物語が何も頭に入ってこない・・・。

 そこで一旦停めてWikipediaを開きながら鑑賞することに。

 1916年、アラブ反乱の指導者ファイサル王子と面会したロレンスは、独立闘争への協力を約束し、紅海北部の海岸の町からアラブ人の勇者50人を率いてネフド砂漠を渡り、オスマン帝国軍が占拠する港湾都市アカバを内陸から攻撃する、という。

 1962年公開の作品、CGもドローンもモーションキャプチャーも無い時代に、よくもまあこんなスケールのでかい題材で映画を撮ろうと思ったもんだ、とまた驚く。見渡す限りの砂漠というロケーションはそれだけで過酷なのに、そこでラクダと馬の大群を使った戦闘シーンを撮るんだ。

 このデヴィット・リーン監督、数年前には「戦場にかける橋」も撮っている。

こちらも、第二次世界大戦中1943年のタイとビルマの国境付近で、日本軍の捕虜となったイギリス人兵士らが、日本軍から強制的にクワイ川にかける木橋の建設をさせられ、しまいにはその橋は爆破されてしまうという、スケールのでかいフィクションとなっている。そして同じくアカデミー賞7部門受賞だった。まあとにかくすごい監督なのである。黒澤明やスピルバーグが羨ましがるほどの人物だ。

 話を戻しましょう。「アラビアのロレンス」

 主人公のトーマス・エドワード・ロレンスはもともと考古学者で、軍用地図の作成をしたり、その語学力を活かしカイロの陸軍情報部で連絡係を務めていた実在の軍人。そんな一介のイギリス軍将校に過ぎないロレンスが、オスマン帝国に対して、アラブ軍を率いてアラブ反乱を起こす。更にダマスカス占領ではアラブにアラブを与えようと一足早く到着し、町中をアラブの旗で埋めたという。

 そんなまさか、と思った。

 さあ、改めて鑑賞。

 冒頭は主人公の葬儀、そこでの故人の評判はさまざまで、良く言う者もいれば、恥知らずの目立ちたがり屋、偉大な人物だったが良く知らん、という者も。とにかく変わり者であることは分かった。時代の波にのまれ、自分がアラブ人になったかのように振る舞い、この戦いはイギリス軍のためなどではなく大義ある聖戦だと思い込んだロレンス。政治家と軍人に利用されていたとも気づかずに。

 どのようにして周りに翻弄されていったかと言うと・・・。

 ここで描かれる最初のロレンスという人物は、知識豊富で好奇心旺盛、正義感があり勇敢である。

 最初に出会ったハジミ族のガイドが、ハリト族の男によって殺された。アラブが部族同士で戦う限りいつまでも無力で愚かな民族にすぎないぞと怒りを表し、アラブ民族がまとまる事が真の平和であると考えている事を表明している。

 アカバへの道中、列からはぐれてしまった男を一人で探しに行った。命懸けだ。見事助けて帰ってくるわけだが、その勇敢な行動がアラブから認められ、エル・オレンスという敬称と、首長の衣装をもらった。一人の族の長というわけだ。偉大な人間は自分で運命を切り開く、と称賛される。真っ白で綺麗な衣装をとても気に入ったようだ。ハウェイタット族をアカバ攻撃に引き込むことにも成功して軍は拡大し、ますます指揮が高まる。

 ロレンス調子に乗る。

 この後、事件が起こる。その解決のためロレンスはハリト族の一人を自らの手で処刑しなくてはならなくなった。それが命懸けで助けた男だった。

 ロレンス落ち込む。

 ハウェイタットの貢献もあり、見事アカバ攻撃は成功を遂げる。

 ロレンスまた調子に乗る。モーゼにでもなった気分だ。

 今度は召使としてそばに置いていた少年二人の内の一人を見殺しにしてしまった。眼前1メートル先で、砂漠の砂に飲み込まれてしまった少年を助けることができなかった。

 この時はもう心神喪失状態だ。

カイロの司令部に赴きアカバの件を報告し少佐に昇格するも、自分の心情を吐露し、この衣装はまさに芝居の衣装だ、適任じゃないと泣き言を言いだす。

 だがまた新たな任務が下る。エルサレム突破。オスマン帝国の鉄道破壊。そのための爆弾や機関銃など、なんでも支給してやると言われ。

 シカゴ特派員の記者が、アメリカが加勢するために戦争の実態を記事にすると言って取材を始め、それが報道されると、ロレンスは時の人となる。

 ロレンスまた調子に乗る。 

 鉄道破壊の作戦中、もう一人の召使の少年が負傷。捕虜になるくらいならとロレンスが手を下し射殺。

 もうこの頃は躁鬱状態なのだろう。自分の力を過信し、前に進むしかない。私がいなかったらどうなる?私をただの人間だと思ってるのか?

 私は透明人間だ、と言って町に出て、オスマン帝国の将軍に捕まり、拷問を受ける。この時の拷問が彼の一番の転機となった。精神的ショックは深く、

「いろいろ学んだ、ここを去る、私は終わった、私はアラブではない、思い上がりだった、私は白人だ、普通の人間だった、楽になりたい、同胞のもとに帰る」と。英雄かのように記事に書かれたが、今は別人になりたい。

だがこの後も護衛を金で雇い、ダマスカスを攻める。捕虜はいらない皆殺しだと言って、復讐の大量虐殺まで行ってしまう。結果ロレンスの部隊は、イギリス陸軍正規部隊より一足早くダマスカスをオスマン帝国軍から解放することに成功する。

アラブにアラブを与えたのだ。

だがアラブ国民会議なるもので挫折し、またも「砂漠はもう二度と見たくない」と言い出す始末。

「汚いアラブ人め」泣き笑うロレンス。

 一連の作戦にしても結局は、政治家と軍人の妥協劇のお膳立てに過ぎなかった。

アラブにはジハードという考え方があって、イギリス人が簡単にアラブ人になることは出来ないと思い知らされたのだ。

アラブは砂漠を愛さない、とアラブ人が言っていた。アラブを軽く見ていると。

アラブ軍の指導者かのように嬉々としてオスマン軍と戦ってきたオレンスは、自分はアラブ人ではなく、ただのイギリス軍人だと思い知らされ、同胞のもとへと帰っていく。儚い夢のごとく切ないラスト。

そして冒頭のバイクのシーンを思い出すと、ロレンスの超ハードで短い人生はいったい何だったんだという余韻にふける。

 実際の史実と実在のトーマス・エドワード・ロレンスについて、この作品がどこまで真実でどこからがフィクションかは分からないが、このなんとも数奇な人生、莫大な予算と労力をかけて映画化したくなる気持ちはよく分かった。
 

 そして何より、美しい映像も存分に堪能しよう。凝った映像美、大掛かりな撮影、過酷なロケーションは見る価値あり。

 マッチの火を消すとそこは砂漠の日の出。ラクダと広大な景色、地平線の遥か遠くから現れた小さな点がたっぷり時間をかけて徐々に近づくシーン、竜巻、太陽、白い砂漠、青い空。美しい金髪碧眼のピーターオトゥール。音楽も美しい。

 227分 長尺だが観てよかった。

 U-NEXTで、鑑賞

-アクション, ドラマ・コメディ, 史上最高の映画100本