SF・アドベンチャー アクション

ドラマ『ロキ』シーズン1――自分が好きすぎる男が、自分に出会ったら

  作品データ

作品名:ロキ(Loki)

公開年:2021年

監督:ケイト・エロン

原作:スタン・リー、ラリー・リーバー、ジャック・カービー『ロキ』

出演:   

  • トム・ヒドルストン
  • オーウェン・ウィルソン
  • ソフィア・ディ・マルティーノ

話数:6話

製作国:アメリカ

ジャンル:アクション・アドベンチャー・ファンタジー

画像出典:TMDb(The Movie Database)

『エンドゲーム』から始まる、もう一人のロキ

『アベンジャーズ/エンドゲーム』で、アベンジャーズは過去へ戻り、インフィニティ・ストーンを集め直そうとする。

ところが、2012年のニューヨークで、捕らえられていたロキが四次元キューブを奪い、逃亡してしまう。

ドラマ版『ロキ』は、そこから始まる。

つまり、私たちが『アベンジャーズ』から観てきたロキが、そのまま続いているわけではない。

アベンジャーズの作戦によって生まれた、別の時間軸のロキ。いわゆる「変異体」だ。

インフィニティ・サーガのロキは、ヴィランでありながら憎めないキャラクターだった。

ソーへの複雑な感情、父オーディンへの反発、認められたいという欲求。悪事を働きながらも、その奥にある孤独や愛情が見え隠れする。

ところが、ドラマ版のロキは、どこか違う。

同じロキなのに、まるで別人だ。

でも、考えてみれば当然なのかもしれない。

このロキは、これまでのロキが経験してきた人生を歩んでいないのだから。

人間は、経験によって仕上がっていく

人間は、最初から完成品として生まれてくるわけではない。

誰と出会うか。どんな環境で育つか。どんな失敗をし、何を失い、何を大切にするようになるのか。

そうした経験の積み重ねによって、人は少しずつ変わっていく。

ほんの小さな違いが、その後の人生を大きく変えることだってある。

インフィニティ・サーガのロキとドラマ版のロキが違って見えるのも、歩んできた人生が違うからだ。

さらに、ドラマには、クラシック・ロキやキッド・ロキ、ワニ・ロキなど、さまざまなロキが登場する。

いや、ロキがいっぱい! ワニまでいる!🤣

でも、これは単なる遊びパートではない。

同じロキから生まれた存在でも、それぞれ違う経験を積み、違う姿になっている。

では、人間をその人らしくしているものは何なのだろう?

生まれ持った性質なのか。育った環境なのか。それとも、人生の中で自分が選んできたことなのか。

このドラマは、ロキというキャラクターを通して、そんなことまで考えさせてくれる。

ところが、人生はすべて決められていた?

ここで登場するのが、時間軸を管理するTVAだ。

TVAは、正しい時間の流れを守るため、そこから外れた存在を「変異体」として扱う。

でも、そもそも、誰が正しいと決めたのだろう?

人間は経験によって変わる。

出会いによって考え方が変わり、失敗によって成長し、時には間違った選択をしながら、それでも自分の人生を歩いていく。

ところが、その経験も、出会いも、選択も、すべてがあらかじめ決められていたのだとしたら?

自分の意思で生きているつもりでも、実は決められた筋書きをなぞっているだけなのか。

自分で選んだと思っていたことさえ、最初から決まっていたのか。

そんなわけない!

……と、反抗したくなるのが人情というものだ(笑)。

そして、ロキもまた、TVAの仕組みに疑問を抱いていく。

自分の人生を、自分以外の誰かに決められるなんて、ロキが納得するはずもない。

もともと自分の思いどおりに世界を動かしたがる男だ。自由を奪われて黙っているような性格ではない。

ただ、このドラマが面白いのは、ロキが単に支配に反抗するだけの話ではないところだ。

彼自身が、少しずつ変わっていくのである。

自分のために始めたことが、いつしか……

最初のロキの目的は、自分のいた世界に戻ることだった。

TVAから逃れ、自分の人生を取り戻したい。

出発点は、あくまでも自分のためだ。

ところが、タイムキーパーが偽物だったことを知り、TVAの正体に迫っていく。そして、シルヴィと出会い、さまざまなロキたちと関わるうちに、問題は自分一人のものではなくなっていく。

最初から世界を救おうとしていたわけではない。

自分の自由を取り戻したかっただけなのに、いつしか、自分の目的だけを追いかけていれば済む話ではなくなってしまう。

ここが面白い。

ロキが責任感を抱くなんて、以前なら考えられなかった!

自分の利益を優先し、他人を利用することも厭わなかった男が、少しずつ、自分以外の存在や、自分の行動がもたらす結果を意識するようになる。

もちろん、ロキが突然、立派な人格者になったわけではない。

でも、自分のために始めた行動が、いつの間にか自分だけの問題ではなくなっている。

その変化が、ロキという人物を、以前よりも人間らしく見せているのだと思う。

シルヴィは、他人であり、自分でもある

そして、ロキの変化を考えるうえで欠かせないのが、シルヴィとの出会いだ。

彼女もまた、ロキの変異体。

つまり、もう一人のロキである。

ロキはシルヴィに惹かれ、彼女の目的に加担していく。

ここで思うのが、ロキという男のナルシストぶりだ。

自分が大好きなロキが、自分と同じ存在に惹かれる。

とんでもなく、ロキらしい!

ただし、シルヴィはロキの分身ではない。

同じロキであっても、歩んできた人生は違う。彼女には彼女の経験があり、彼女自身の目的があり、譲れないものがある。

シルヴィはロキの変異体だが、シルヴィはロキとは別人格だった。

自分と同じような存在に惹かれたはずなのに、その相手は自分とは違う意思を持っている。自分の思いどおりになるわけではない。

ロキにとって、これは大きな経験だったのではないだろうか。

これまでのロキは、自分の知恵や策略で、他人を動かそうとしてきた。

ところが、シルヴィはそう簡単には動かせない。

彼女には彼女の人生がある。彼女が何を選ぶのかは、ロキには決められない。

自分と同じだからこそ惹かれる。でも、自分と同じだからこそ、相手も自分の意思を曲げない。

なんとも厄介な関係である。

それでも、ロキはシルヴィに加担する。

自分だけのために行動していた男が、自分以外の誰かを意識し、その存在によって自分の行動まで変えていく。

ここに、ロキの変化がある。

ロキは、別人になったのか?

こうして考えると、ドラマ版のロキは、インフィニティ・サーガのロキとは別人のように見えながら、やはりロキらしさを失ってはいない。

相変わらずプライドが高いし、自分が好きだし、頑固だし、ひと筋縄ではいかない。

でも、経験が違えば、人間は違う仕上がりになる。

そして、新たな経験を積めば、そこからまた変わっていく。

ロキは、過去の自分を見せられ、自分がどんな人間だったのかを知る。

さらに、シルヴィと出会い、自分と同じ存在でありながら、自分とは違う人生を歩んできた相手と向き合う。

自分を知ること。そして、自分以外の存在を知ること。

その二つが重なったことで、ロキは今までとは違う選択をするようになったのかもしれない。

別人になったから変わったのではない。

ロキらしさを持ったまま、変わっていく。

そこが、このドラマの魅力だと思う。

自由を求めることは、責任を引き受けることなのか

ここまで考えてきて、もう一つ気になることがある。

もし、人間の性格や行動が、環境や経験によって作られるのだとしたら、その人がしたことの責任は、どこにあるのだろう?

さらに、その経験や選択まで、あらかじめ決められていたのだとしたら?

運命に決められていたのなら、責任はないのか。

それでも、自分で選んだのなら、その結果を引き受けるべきなのか。

自由と責任は、切り離せないものなのかもしれない。

自分の人生を自分で選ぶということは、好き勝手に生きることだけではない。自分の選択がもたらす結果にも、向き合うことになる。

ロキは、最初からそんなことを考えていたわけではない。

ただ、自分の自由を取り戻したかった。

ところが、さまざまな経験を通して、自分の行動が自分だけの問題ではなくなっていく。

自由を求めていた男が、いつしか、自分の選択に責任を感じるようになる。

これまでのロキを知っているからこそ、その変化が面白い。

そして、そんなロキが、自分の人生を支配しようとする仕組みに反抗する。

自由とは何か。運命とは何か。

人間は何によって変わり、自分の人生をどこまで自分で選べるのか。

『ロキ』シーズン1は、そんな問いを投げかけてくる。

物語は、まだ終わらない

ド派手なアクションで世界を救うMCUとは、ひと味違う面白さを持ったドラマだった。

時間軸をめぐるSFでありながら、描かれているのは、人間の変化や自由、運命、責任といった、なかなか答えの出ない問題だ。

そして、その中心にいるのが、あのロキなのだから面白い。

自分が大好きで、世界を思いどおりにしたがっていた男が、自分と同じ存在に出会い、思いどおりにならない現実に向き合っていく。

ロキは別人になったのか。それとも、ロキらしさを持ったまま変わっていったのか。

シーズン1を観終えても、簡単には答えが出ない。

しかも、物語はまだ終わっていない。

そして、シーズン2へ続く。

さて、ロキはこの先、どこへ向かうのか。

引き続き、見届けることにしよう。

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