SF・アドベンチャー アクション

『サンダーボルツ*(2025年)』ヒーローじゃない彼らが、仲間になる。

  作品データ

作品名:サンダーボルツ*( Thunderbolts* )

公開年:2025年

脚本:エリック・ピアソン     

出演:   

  • フローレンス・ピュー
  • セバスチャン・スタン
  • ワイアット・ラッセル
  • ハナ・ジョン=カーメン
  • デヴィッド・ハーバー
  • ルイス・プルマン
  • ジュリア・ルイス=ドレイファス

上演時間:126分

製作国:アメリカ

ジャンル:アクション・SF

画像出典:TMDb(The Movie Database)

これまでのアベンジャーズとはずいぶん違う、「集められたメンバーたち」。

彼らは、選ばれしヒーローでもなければ、正義のために集まった仲間でもない。

それぞれに過去があり、問題を抱え、自分自身のことで精いっぱい。そんな、ひと癖もふた癖もある人間たちだ。

ヴァレンティーナによって集められた彼らは、最初からチームワークなど期待できそうにない。むしろ、お互いを信用するどころか、いつ自分が利用されるのかと警戒している。

ところが、そんな彼らが、ひとりの人間を救うために力を合わせることになる。

完璧なヒーローが集まるのではなく、傷や問題を抱えた人間たちが、互いを支え合うことでヒーローになっていく。

それが、この映画の面白さなのではないだろうか。

ボブは、なぜ救われなければならなかったのか

そんな彼らの前に、突然現れるのがボブという青年。

明らかに他のメンバーとは様子が違う。

いったい何者なのか、最初は全く分からない。

戦闘中の彼ら、暗殺者や超人の前にいきなり現れて、パジャマ姿?でオロオロと名前を名乗るばかり。

頼りなく、ヒーローらしさは感じられない。

ところが、彼はとんでもない秘密を抱えていて、この映画のキーパーソンとなる。

ボブは、もともと普通の人間だった。非人道的な実験によって、セントリーという強大な力を手に入れた人物だったのだ。

その点では、実験によって超人的な力を得たキャプテン・アメリカと重なるところがある。

しかし、スティーブには力を得る前から、自分より弱い人間を守ろうとする強い意志があった。

一方のボブは、強大な力を手に入れても、自分の心の闇や孤独を克服できずにいる。

力を持つことと、ヒーローになることは同じではない。

そして、ボブに必要だったのは、さらに強い力ではなく、自分を受け入れてくれる仲間だったのだ。

ボブの中にある闇が、ヴォイドという恐ろしい姿となって現れ、ニューヨークの街を丸ごとのみ込んでいく。

それに立ち向かったのが、サンダーボルツのメンバーたちだった。

彼らは、ボブを倒そうとしたのではない。ボブを救おうとしたのだ。

自分自身の問題さえ解決できていない彼らが、他人の心の闇と向き合い、何とかして救い出そうとする。

完璧な人間だから誰かを助けられるのではない。自分も傷を抱えているからこそ、相手の苦しみが分かるのかもしれない。

「あなたは一人じゃない」

その中でも、エレーナの変化が印象的だった。

冒頭で、ヴァレンティーナの策略で閉じ込められ、殺されそうになった時は、ボブに対して、

「私たちはみんな孤独、ここを出るまで協力して、あとは超人と戦って死んだって私の知ったこっちゃない。」というようなことを言っていた。

エレーナ自身も、心に大きな孤独を抱えている。

この時点では、今までもこれからも、独りで戦うつもりだった。

孤独や虚無感を感じることはあるけど、そんなの無視するしかない。ずっとそうやって生きてきた。

けれど、ボブの心の闇が形になったヴォイドを目の前にしたとき、エレーナはその考えを撤回する。

「あなたは一人じゃない。私がいる。私たちがいる」

そんなふうに、ボブに伝えるのだ。

これは、エレーナ自身の変化でもあると思う。

孤独は受け入れるしかないと思っていた彼女が、誰かとつながることで、その孤独を乗り越えられるかもしれないと気づいた。

そして今度は、自分がボブに手を差し伸べる。

ボブを救おうとする彼らの姿を見ていると、仲間というものは、最初から存在するものではなく、一緒に困難を乗り越える中で生まれてくるのだと感じる。

アベンジャーズとは違うヒーローたち

これまでのアベンジャーズは、それぞれが圧倒的な能力を持ったヒーローたちだった。

もちろん、彼らにも悩みや弱さはあった。それでも、自分の信念を持ち、困難に立ち向かう強さがあった。

それに比べると、サンダーボルツのメンバーたちは、ずいぶん頼りない。

自分のことで悩み、過去を引きずり、時には自分自身を持て余している。

それでも、彼らは誰かを助けようとした。

そして、そんな彼らの姿を見ていて、私がちょっと嬉しかったのがジョン・ウォーカーだ。

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』では、大っ嫌いだった。

ところが今回は、ずいぶん印象が変わった。

相変わらず、とっつきにくいところはあるけれど、家族を大切にし、仲間を気遣う一面もある。

彼もまた、過去の失敗や挫折を抱えた人間なのだ。

以前は、キャプテン・アメリカという肩書にこだわっていた彼が、今回は仲間の一人として行動している。

こうして見ると、彼も少しずつ変わっているのかもしれない。

ヒーローらしく振る舞うことよりも、仲間を大切にすること。

そんな彼の姿が、今回はなかなかよかった。

ヴァルという、なかなか面白い人物

そして、この映画でもう一人、忘れてはいけない人物がいる。

ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ、通称ヴァルだ。

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で初登場した彼女は、今回はCIA長官にまで出世している。

どんな出世だ!?

ヴァルは、間違いなくイヤな奴だ。

人を利用することに何のためらいもないし、自分の目的のためなら、昨日まで利用していた相手を切り捨てることも平気。サンダーボルツのメンバーたちも、ボブも、彼女にとっては自分の目的を達成するための道具にすぎなかった。

ところが、彼女の言動を見ていると、単に腹が立つだけではない。むしろ、その徹底した処世術には、清々しさすら感じてしまう。

部下のメルに対して、彼女はこんなことを言う。

「世界を変えたいの? 善人になりたいの?」

「両方ってのはダメですか?」

「この世はね、善人か悪人かじゃないの。悪人か、もっと悪人か、なのよ」

なんとも強烈な言い切り方だ。

でも、これを聞いて、私は妙に納得してしまった。

人間を善人と悪人に分けることなんて、本当にできるのだろうか。人間の中には善も悪もあって、どちらか一方だけで説明できるものではない。映画を観ていても、登場人物の善悪をどう判断するかは、究極のテーマの一つだと思う。

それを、ヴァルはあっさりと「悪人か、もっと悪人か」と言い切ってしまう。

もちろん、かなり極端な考え方だ。でも、その潔さには、思わず笑ってしまうし、ある意味、真理を突いているようにも感じる。

ちょっと脱線してしまうが、ここで性善説と性悪説の話を思い出す。

人間は生まれながらに善なのか、それとも悪なのか。

私は、どちらかといえば「性悪説」の方に惹かれる。といっても、人間は悪として生まれたのだから悪いことをして当然、という意味ではない。人間の欲望や本性をそのままにしておけば、善く生きることは難しい。だからこそ、学び、努力し、善に向かって生きていく。そういう考え方に魅力を感じるのだ。

もちろん、ヴァルが荀子の性悪説を信奉しているわけではない(笑)。

むしろ彼女は、人間の善意など最初から信用していないように見える。人間は善か悪かではなく、使えるか使えないか。そう割り切っているのだろう。

だからこそ、彼女の行動には迷いがない。

最初はサンダーボルツを始末しようとしていたのに、彼らがボブを救い、ニューヨークの危機を乗り越えると、今度は彼らを新たなヒーローとして世間に紹介する。

その名前は、ニュー・アベンジャーズ!

いやいや、ずいぶん都合がいい。

でも、この切り替えの早さも、ヴァルらしい。自分にとって使えるものなら、昨日の敵だって利用する。そこにためらいも、妙な正義感もない。

最初は、ヴァルのことを「自分では何もできない政治家」なんて思ったりもしたけれど、よく考えれば、彼女は自分で戦う必要などないのだ。権力を使い、人を動かし、情報を操り、自分に都合のいい状況を作り出す。それが彼女の戦い方なのだろう。

イヤな奴には違いない。

でも、今のところ私は、そんなヴァルが嫌いではない。

善人のふりをするわけでもなく、自分の欲望や打算を隠そうともしない。人間なんてそんなものだと、堂々と言い切ってしまう。

さて、そんなヴァルと、仲間を信じ始めたニュー・アベンジャーズ。

人間をどう見ているかという点でも、ずいぶん対照的な二組だ。

これから彼らがどう関わっていくのか。ヴァルという人物も含めて、今後が楽しみになってきた。

そして、彼らはニュー・アベンジャーズに!

それにしても、彼らがアベンジャーズを名乗ることになるとは!

これはややこしい事になった。

彼らが名乗った「ニュー・アベンジャーズ」が、私たちの知っているアベンジャーズの正式な後継チームというわけではない。サム・ウィルソンを中心に、別の正規のアベンジャーズが結成される可能性は十分ある。

トニーの娘モーガン・スターク、天才少女リリ・ウィリアムズ。ソーの娘ラブ。ブラックパンサーの妹シュリ。アントマンの娘キャシー・ラング。他にも、モニカ・ランボー、カマラ・カーン、ケイト・ビショップ……。

私の勝手な予想だけど、正規のアベンジャーズ候補を考えてみても、既にたくさんいる。

そう考えると、彼らはあくまで亜流のアベンジャーズなのかもしれない。

そもそも、サムの了承を得ていないし、アベンジャーズの名前を使うには、いろいろと面倒なこともありそうだ。

そこで、「アベンジャーズZ!」って。

……いや、それはそれで。お前たち、ほんとにそれでいいのか!?

でも、私はこのメンバーたちの今後にも期待している。

これまでのアベンジャーズとは、ずいぶん違うチームになるだろう。強さも、考え方も、戦い方も違う。

何より、彼らはそれぞれに問題を抱えた人間たちだ。そんな彼らが仲間になり、誰かを救うために力を合わせた。

正規のアベンジャーズとは別の道を歩むことになるのかもしれないけれど、それはそれで面白い。

本家アベンジャーズと、ニュー・アベンジャーズ。いや、アベンジャーズZ?

この二つのチームが、これからどう関わっていくのか。

そして、このちょっとクセの強いメンバーたちが、どんなヒーローになっていくのか。

楽しみにしているよ!

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