SF・アドベンチャー

ドラマ『ロキ』 シーズン2――無数のロキが生きられる世界を、たった一人のロキが守る

 

 作品データ

作品名:ロキ( Loki )

公開年:2023年    

出演:   

  • トム・ヒドルストン
  • オーウェン・ウィルソン

話数:6話

製作国:アメリカ

ジャンル:アクション・アドベンチャー・ファンタジー

画像出典:TMDb(The Movie Database)

ロキは、ここまで変われるのか!

ここまでロキが変わるとは!

観終わって、まず驚いたのは、ロキというキャラクターの変化だった。

と言ってもこれは、ロキの変異体。

本来のロキ、インフィニティ・サーガのロキは、アスガルドの王になりたかった。自分の力を認めさせたい。自分こそが特別な存在だと証明したい。そのために他人を支配し、自分の思いどおりに世界を動かそうとしていた。

世界を支配することこそ、人々にとって幸せなことだとすら考えていた。

ロキはもともと、とんでもなく賢い男だった。

相手の心理を読み、先を考え、策略を巡らせる。その能力は、昔から十分に備わっていた。

では、この変異体のロキは、本来のロキと何が違うのか。

それは、このロキは自分の知っている世界の外側を知ったことではないだろうか。

アスガルドという世界で、ソーやオーディンとの関係に悩み、王位をめぐって争っていたロキ。そんな彼がTVAに連れてこられ、自分の人生を見せられ、別時間軸という想像もしなかった世界に足を踏み入れる。

自分が知っていた世界は、もっと大きな世界のほんの一部だった。

しかも、そこには自分と同じ姿をした、別のロキたちまで存在している。

自分だけが特別なロキではない。自分だけが唯一のロキでもない。

これは、ロキにとって大きな衝撃だったはずだ。

世界が広がれば、世界の見え方も変わる。

ヴィランとしてのロキが、ズル賢さを失ったのではない。むしろ、その賢さを使う目的が変わっていったのだと思う。

王になりたかった男が、誰かのために生きる

ロキが王になりたかった理由は、単なる権力欲だけだったのだろうか。

もちろん、野望もあっただろう。でも、その奥には、自分を認めてほしい、自分の存在に意味があってほしい、誰かの役に立ちたいという気持ちもあったのだと思う。

自分が特別な存在だと証明したい。必要とされたい。感謝されたい。

その願いを満たす方法として、ロキが選んだのは、他人を支配することだった。

ところが、TVAでは違う経験をする。

最初は、「シルヴィを捕まえる」という目的のために必要とされたロキ。けれども、仲間たちと行動するうちに、彼には守りたいものができてくる。

仲間と出会い、失いたくないものを知り、自分の行動が誰かの人生に影響することを知る。

そうしてロキは、少しずつ変わっていく。

自分のために世界を動かそうとしていた男が、世界のために自分が何をすべきかを考えるようになる。

これは、単に悪人が善人になったという話ではない。

自分の欲望を満たすことよりも、大切な人たちの未来を優先する。

そんな選択をするロキがいたっていいじゃないか。

無数のロキの中の、たった一人のロキ

そして、今回の物語では、このロキが変わったからといって、すべてのロキが変わったわけではない、ということが重要。

このドラマのロキも、マルチバースに存在するロキの一人にすぎない。

TVAでの経験を通して、自分の生き方を変えたロキもいれば、これまで私たちが観てきた、自分勝手で、野望に燃え、王になろうとするロキも、別の時間軸に存在している。

その上で今回のロキは、自分とは違う生き方をする「ロキたち」も存在できる世界を守る存在になった。

ここが、なんとも面白い。

インフィニティ・サーガのロキは、自分が特別な存在になることを望んでいた。

ところがこちらのロキは、自分だけが特別であることよりも、無数の存在が生きられることを選ぶ。

このロキが、別のロキを消すのではない。

どんなロキも生きられる世界を守るのだ。

「在り続ける者」が管理していた世界では、神聖時間軸以外の時間軸は、剪定されてしまう。

しかし、ロキが選んだのは、ひとつの時間軸だけを残すことではなかった。

無数の時間軸が、それぞれの世界で存続できるようにすることだった。

玉座に座ったロキが手に入れたもの

最後のシーンは、もう壮大なSFロマンチックファンタジーだった。

無数の時間軸を前にして、ロキがたどり着いた場所。あの玉座の映像は、神話的で、宇宙的で、神々しく美しかった。

王になりたかった男が、世界を自分のものにするためではなく、世界を守るために玉座に座ったのだ。

ただし、その選択には大きな代償がある。

このロキは、仲間たちと一緒に生きることも、自分自身の人生を自由に楽しむことも手放した。

みんながそれぞれの人生に戻っていくなかで、自分だけは、時間軸を支える存在として、その場所にとどまり続ける。

この結末には、驚きしかない。

大いなる目的は、どこから生まれるのか

ここで、ウロボロス的な世界観が浮かび上がる。

ある目的を達成するための行動が結果を生み、その結果がまた新たな目的になる。

誰かにとっての終わりが、別の誰かにとっての始まりになる。

そう考えると、「大いなる目的」も、最初から誰かが決めた絶対的なものとは限らない。

無数の存在が選択し、行動し、その結果が積み重なることで、世界は次の形へと変わっていくのかもしれない。

ロキもまた、最初から自分の役割を知っていたわけではない。

さまざまな経験の果てに、自分が何のために存在するのか、その意味そのものが変わっていったのだ。

ロキという物語の面白さ

『ロキ シーズン2』は、時間軸やマルチバースをめぐる壮大なSFであると同時に、一人の男が、自分の生き方を変えていく物語でもあった。

自分の知っている世界がすべてだと思っていた男が、世界の広さを知り、他者と出会い、自分の価値観を変えていく。

そして最後には、かつての自分なら選ばなかった道を、自分の意志で選ぶ。

それでも、マルチバースには、かつてのロキも存在している。

この世界には、善のロキもいれば、ヴィランのロキもいる。世界を守るロキがいる一方で、世界を脅かすロキもいる。

一人のロキが成長したからといって、ロキという存在全体が善人になったわけではない。

それが、マルチバースという世界観だ。

そして、かつてアベンジャーズの敵だったロキが、今やマルチバースの存続を支える存在になった。

『エンドゲーム:アンコール』で追加された、キャプテン・アメリカの前にTVAの分析官としてのロキが現れるシーンを思い出すと、MCUの物語が、ここまで大きく広がってきたことを改めて感じる。

かつての敵が、世界を守る側にいる。

なんとも不思議で、面白い展開だ。

この先、『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』で何が起こるのか。それは楽しみに取っておこう。

それにしても、ロキ。

悪戯の神、兄への嫉妬や劣等感を抱く、口八丁のヴィランが、MCUにとってこんなにも重要人物になるとは思っていなかった。

アスガルドの王になって宇宙を支配しようとしていた男が、

ドラマ版ロキでは、無数の世界を守るために、ひとりで玉座に座り続けるという、

壮大で、切なくて、ロマンチックな結末となった。

そして、これまで観てきたロキも、これから出会うかもしれない別のロキも、どちらも存在できるマルチバースという世界観が、ますます楽しみだ。

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